私がコーチングスーパービジョンを学んだきっかけは、チームコーチングに必要不可欠であると感じたからでした。

私が最初にチームコーチングを提供し始めてから今で約5年ぐらい経ちました。その間目まぐるしいほどの変化を起こす組織を目の当たりにしました。ちょうどその組織の転換期に出会ったこともありますが、その時の経験を振り返ると、複雑なチームと組織のシステムを一人のコーチが関わる難しさを実感します。

ピーター・ホーキンスが彼の著書『チームコーチング』(ピーター・ホーキンズ、田近秀敏監訳、佐藤志緒訳、英治出版、2012年)のなかで、チームコーチングのスーパービジョンについて、一つの章を費やして取り上げています。
そこでは、スーパービジョンの効果について、このように書かれています。「“特定のクライアントの状況や人間関係”や“彼らが引きおこす反応やパターン”を振り返り、熟考できるようになる。そして、スーパービジョンを通じてそれらをじかに変容させることで、コーチングを受けている人も、クライアントである組織も、コーチ自身の実務的な実践にも、深遠な影響をもたらすことができる」(前掲書P298)とあります。

彼はさらに、チームコーチに求められることについて「効果的なチームコーチングを行うためには、『チームと連携して働きながらも、チームのダイナミクスや文化からは独立したまま』という難しい立場を維持しつつ、『チーム内』及び『チームとそのチームがふくまれたより広範囲に及ぶシステムの間』のシステミックなダイナミクスを見極める必要がある。」(前掲書P299)とし、これらの複雑なダイナミクスを一人のチームコーチが察知してその意味を理解するのは不可能に近いが、良質なスーパービジョンをうければ可能になると書いています。

ここでいう、システミックなダイナミクスとは、外から見えるようなシステムだけではなく、人同士の内部で起こる心理的なダイナミクスが気づかないうちに全体に大きな影響を与えてしまうことを言っていると思います。そして、コーチが、それらと独立したままの立場でいられなくなると、いつのまにかそれに飲み込まれてしまい、チームコーチとして全く機能しなくなってしまいます。

私がスーパービジョンのテーマで選ぶのもまさにそのようなものでした。
チームはそれぞれとても個性があり、それは、業務内容の性質や組織内での役割、リーダーやメンバーの技能的な構成や、人間的なスタイルの構成、それらの関係性、チームの成熟度と個人の成熟度、など、様々なことで、まるで個人のように同じチームは一つとして存在しない。さらに、そのメンバーが一人でも交代すると、また一気に変わります。

チーム内部だけでもそのような複雑さがあるのですが、そのメンバーの一人一人がそれぞれに背後にさらなる複雑なものを背負っています。
組織の内外で業務で関わったり、政治的に関わったり、個人的感情が動いたり。さらに、その組織独特の文化があり、言葉の使われ方も様々です。

私が受けた、チームコーチングスーパービジョンの学びでも、個人コーチングとの違いは、その利害関係者の複雑さとシステムの複雑さから心理的側面が増幅されることでした。
すなわち、コーチ自身がクライアントから受ける影響(転移や逆転移などで起こるパラレルプロセス)は、個人コーチングでも、かなりありますが、それがチームコーチングになると大きく増幅するというのです。
実際、私自身も、そのパラレルプロセスを体験したのは、前回の記事でも触れたとおりです。

これらは、個人コーチングですでにスーパービジョンを受けていると、あらかじめシステムへの視点は成長しているかもしれませんが、それでも、あまりにも一気に増幅するので、キャパオーバーしてしまうことは必定です。

私がコーチングスーパービジョンを受け始めたのは、チームコーチングがスタートして、3年ぐらい経ったころでした。それまでもきっと様々なことが私の中で起こっていたはずですが、なんとなくうまくやり過ごしていただけだったのかもしれないと感じます。
ピーターホーキンズが言うように、組織全体でおこっていることを見極めているかというと、そのような視点はぼんやりとしているのと、私が関わっているチーム以外で起こっていることまで、とても手を伸ばすことはできないと諦めていたように思います。

それが、スーパービジョンを受けて初めて、私自身が組織全体からいかに大きな影響を受けていたかに気づかされました。
それは、チームコーチングへの影響というより、私個人に起こっていたことで、何か、恐れや不安や遠慮を感じてしまうような心理的なものです。
自分の中の感情なので、自分で調えるしかないと思っていたことが、スーパービジョンでそのシステムで起こっていることが整理できたことで、それらのネガティブな感情の原因がわかり、リーダーや、経営層に、より積極的な提案ができるようになりました。
重要なのは、まずは、自分に起こっていることに気づけていないことが問題なのだと思います。

組織の中のチームは、独立して存在することはできず、システムの中で存在しています。チームコーチングは、まずは、そのシステムの中で自分達のチームがどんな位置にいるか、どんな役割なのかを問うことから始まると思っています。
ということは、チームコーチングの最初期からその複雑なものを扱っていくことになります。
スーパービジョンで、振り返り、システムを眺める場をもっていないと、チームコーチングは、その本当の効果を出すことが難しくなるのだろうと思います。
それも、コーチが何が起こっているのかに気づかないうちに進行して、やがて、チームコーチングでは効果が出ないというような評価をされるかもしれません。

これって、個人コーチングが日本に入ってきた時にも同じようなことが起こっていたのではないでしょうか?
企業への成果を焦るあまり、本来のコーチングではなくなっていく。
そうすると、コーチングの効果は当然でない。
最悪は、コーチングへの拒否反応すら起きてしまう。私がコーチングを始めた13年前はまさにそんな企業がおおかった印象があります。

最近はコーチングの正しいイメージも定着してきましたが、チームコーチングはまさにこれから。
本当に効果を出せるチームコーチングが提供できるために、チームコーチのキャパシティを拡げることは、最重要なのだと思います。

チームコーチングの効果を最大限にしていくために、是非チームコーチングスーパービジョンを取り入れてみて

参考文献
ピーター・ホーキンス『チームコーチング』田近秀敏監訳、佐藤志緒訳、英治出版、2012年